今日からはじまる恋の話
④
* * *
人に縛られるのが嫌いで、今まで自由を求めて生きてきた。
でも本当は自らに課している決め事がたくさんある。
それらはいつの間にか雁字搦めになって、すでに自分ではほどけなくなっていた。
――『お前にとって、鈴村陽汰はアリかナシかどっちなんだよ!』
ナシに決まってると言うべきだったのに逃げてしまった。
鈴村のまっすぐさは、俺の理性を混乱させる。
* * *
俺は飲み屋街の一角にあるバルに来ていた。
ここは和久井さんの従兄弟がマスターをしてる店であり、一見さんお断りの会員制BARだ。通っている客のほとんどがなんらかのセクシュアルマイノリティを抱えている。
「この時間に来るなんて珍しいじゃん」
カウンター席に座って飲んでいると、マスターが声をかけてきた。
マスターの年齢は30代前半。従兄弟ということもあって、和久井さんと顔が似ている。
「大学はちゃんと行ってんのか?」
「当たり前じゃないですか。こう見えて模範生ですよ、俺」
「零士が真面目なことはみんなが知ってるよ」
オールバックに整えられた髪。客から注文が入ると、マスターは銀色のシェイカーをリズムよく振る。氷が上下してる音は耳障りがよくて、自然と心を落ち着かせてくれた。