今日からはじまる恋の話
マスターの背中越しにある棚には常連客のボトルがキープされている。それぞれニックネームが書かれたタグが下げられていて、頻繁に来てる客は一列目、頻度が少ない客のボトルは後ろに陳列されている。
「はい、これ」
俺の前にグラスが置かれた。それはオールドファッションドというカクテルだった。
「え、頼んでないですよ?」
グラスにはオレンジ、レモン、ライムのスライスが添えられていて、マラスキーノチェリーがアルコールの中で沈んでいる。
「零士が来たら出してあげてって祐介からだよ」
祐介さんはここの常連客のひとりだ。マスターとは同い年で客を超えて友人でもある。
そしてもうひとつ。祐介さんは綾子さんの元カレだ。
詳しく話すと長くなるから割愛するけれど、綾子さんが俺宛てにDMを送ってきた理由は祐介さんにあったりする。
「祐介さんもまだここに来てるんですね」
前はよく遊んでいたけれど、最近は時間が合わなくて連絡すら取っていない。
「うん。でも仕事が忙しくてあんまり顔は出しに来ないよ。新しい彼女もできたみたいだし」
「え、彼女ですか?」
「あいつも懲りないよね。どうせ男に戻りたくなるくせにさ」
祐介さんはバイセクシュアルだ。男女どちらにも恋愛感情を持つことができるけれど、綾子さんと付き合ってた時に祐介さんは俺の男友達と浮気をしていた。多分、それ以前にも遊び相手はいっぱいいたと思う。