今日からはじまる恋の話
やっと鈴村の足が止まる頃には、誰もいないキャンパスの裏手に来ていた。どんな顔をしてるんだろうと思ったけど、その表情はまだ怒っていた。
「ああ、ムカつく、ムカつく、ムカつく!」
感情を隠すことなく、むき出しにしている。
なんで俺のためにこんなに怒ってくれるんだろう。
世界が変わってしまうかもしれないのに。
もう変わってしまったかもしれないのに。
「……なんで、なんで、俺を選んでくれるの?」
気づくと、涙が出ていた。人前で泣いたのは、初めてかもしれない。
「なんでって零士のことが好きだからだよ」
鈴村の目はいつだってまっすぐで眩しい。
「俺はお前ほど痛みを知らない。でも知ったふうな顔で零士の心に入りたいと思ったわけじゃない」
「……でも、俺と一緒にいることで鈴村が傷つくことだってあるよ、きっと」
「俺はあんなやつらに傷つけらんねーよ。だからお前もひとりで傷つくな」
そう言って抱きしめられた。あの時と同じで痛いほど力強い手だ。
「ダメだよ。鈴村。俺は、俺は……」
「俺とお前になんの違いがあるんだよ。なんにも違いなんてねーだろ。俺のことがもったいないってなんだよ。そんなんで酔い潰れんなよ、バカ」
「え、まさか昨日俺のことを運んでくれたのって……」
「俺だよ。和久井さんに電話がかかってきた時、近くにいたんだ。代わりに行く?って言われる前に名乗り出たよ。当たり前だろ、そんなん。すげえ走って迎えに行ったんだからな」
その光景が目に浮かぶ。
昨日のことをあまり覚えてないけれど、俺はずっと鈴村のことを考えていた気がする。
忘れたくて酒を飲んだのに、鈴村のほうがどんなアルコールよりも強かった。