今日からはじまる恋の話
「俺は宇津見零士っていう人間が好きだ。それだけじゃお前の傍にいたい理由にはならねーの?」
俺は今まで大きな壁をいくつも感じてきた。
男とか女とかそんなの関係ないって思いながらも、自分が一番気にしていて、鈴村のことを遠ざけようとした。
始まりがあれば終わりがあって、前へ進んで行ってしまう鈴村とは違って、俺はひとりに戻るだけ。
そんなのは耐えられないし、乗り越えられる自信もない。
だけど今、俺の頭の中では祈りにも似た想いが駆けめぐっている。
鈴村は運命の人ではないのかもしれない。
でも、運命の人を待つのではなく、自分で運命の人を決めていくことだってできるはず。
もうあれこれと考えずに恋をしていいのなら。
恋をしたい相手を選んでもいいのなら……。
「俺も鈴村の傍にいたい」
そう言って強く鈴村の体を抱き返した。
いくつ障害があっても、誰になにを言われても、鈴村からもらった勇気があれば大丈夫。
きみがいれば、なんにも怖いことなんてない。
鈴村が嬉しそうに笑った。俺もつられて笑った。
その瞬間、甘い香りが俺たちを包んだ。
それは、優しい林檎の匂いだった。
END