やっぱり幼馴染がいいと彼氏に振られたら、彼のライバルと恋人の振りをする事になりました

「──多分……初めて、というか……」
 いや、智樹とキスした事はあるのだ。
 一度だけ、だけど。

 けれど、その時彼は悔恨に満ちた眼差しで雪子を見た。から、
 雪子も後悔した。
 まだ智樹には、愛莉さんがいるのに……
 流されるような雰囲気になった自分を叱咤した。

 気まずい沈黙の後は、お互い無かったように振る舞うのが精一杯で。

 そんなファーストキスの思い出が蘇っては、あの時と違う状況に胸の鼓動が止まらない。そんな自分に戸惑っているのだ。嬉しくて。
「幸せな、キスでした……」
 そんな理由で、どうしていいか、分からない。

 そろりと視線を向ければ口を開けたまま貴也は固まっていた。
 聞こえなかったんだろうか、と首を傾げれば、貴也ははっと我に返り、「え? 日向とは? しなかったの?」と捲し立てた。
「あ、ええと……一回だけ……でも嫌だったみたいで……その、んんっ?」
< 183 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop