ピエロの初恋
健斗がジャグリングをしながら玉に乗り、ぐるぐると舞台の上を移動すると一段と大きな拍手が響く。観客の笑顔を見て、健斗はホッとしていた。

ピエロの仕事はみんなを笑顔にすること。大きな鼻をつけ、おどけ、涙を奪って笑顔にする。

笑顔になった観客を見ていると、健斗の目がある一人の女の子に止まった。白いワンピースを着て長い髪を結んだ女の子だ。その子を見た刹那、健斗の胸が高鳴る。ピエロだということを忘れてしまいそうなほど、そこ女の子に心を奪われていた。

その女の子は、ドラゴンサーカスがこの街で公演をするたびに来てくれている子だ。優しく微笑みながら舞台を見てくれているその姿に、健斗は自然と胸を高鳴らせていた。

もっとその微笑みを見ていたい、そう思っても舞台に立てる時間は限られている。今日もそうだ。

観客からのを大きな拍手にお辞儀をし、健斗は舞台から降りる。チラリと女の子を見ると、女の子は健斗に向かって微笑んでいた。その顔を見て、胸をときめかせると嫌でも健斗は感じる。これが自分の初恋なんだと……。
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