ピエロの初恋



魔法のように綺麗な世界だけの時間が終わり、健斗と愛は衣装から私服へと着替える。この瞬間に、みんなを笑顔にするピエロから普通の少年に健斗は変わってしまうのだ。

「あの子が来てくれてよかったね」

愛がニヤニヤしながら言い、健斗は「もう!やめてよ!」と頬を膨らませる。周りに言われれば言われるほど、想いというものは募っていくのだ。一言も言葉を交わしたことがなくても。

「そんな態度取って良いのかな〜?さっき、自販機に飲み物買いに行ったらあの子を見かけたよ。まだこの劇場内にあると思うんだけど」

「えっ!?本当!?」

健斗は目を輝かせ、控え室を飛び出して自販機のところへと向かう。途中、舞台に出ていた出演者たちに「そんなに慌ててどうした?」と声をかけられたが、立ち止まって説明している時間などない。

「まだいるかな……」

いつも微笑みを見せてくれるその女の子がどんな声をしているのか、健斗はまだ知らない。その子の姿しか、健斗は知らないのだ。
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