ピエロの初恋

汗をかきながら走り回り、ようやく自販機の前にたどり着く。公演の練習などで毎日のように走っているはずなのだが、思ったより体力を無駄に消費してしまっていたようだ。

「ハアッ……ハアッ……何か飲もうかな……」

自販機にお金を入れようとした刹那、健斗は誰かと手がぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい！」

健斗が謝りながら横を向くと、一瞬にして頬が赤く染まる。手がぶつかった相手は、偶然にも健斗が探していた女の子だった。

「こちらこそごめんなさい」

女の子の口から発せられる綺麗なソプラノに、疲れ切った体が癒やされていくような感覚を健斗は覚える。しかし、健斗がその声にボウッとしている間に、女の子は健斗から離れようとしていた。

「ま、待って！」

健斗は咄嗟に女の子の手を掴んでしまっていた。女の子から「きゃっ！」と悲鳴が漏れ、健斗はどうしたらいいのかわからず戸惑いながらポケットに手を入れる。

「あの、これあげる！」