第2ボタンより欲しいもの。 ~終わらない初恋~
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「――あ、いい時間になってる。そろそろ買い物に行こうかな」
それからしばらくして、真樹はスマホで時刻を確かめた。十一時――、近くのスーパーマーケットはちょうど空いてくる頃である。
真樹はデビューしてから、この三階建てマンションで一人暮らしをしている。食費を節約するための自炊は欠かせない。
時間を有効に使うために、普段は時短料理をしているのだけれど。今日のように書店のバイトも休みで、執筆の仕事もひと段落ついてヒマな日には、普段より手の込んだメニューを作ることにしている。忙しい身だからこそ、たまには美味しいものが食べたくなるのだ。
真樹はさっそく、冷蔵庫の中身をチェックし始める。これも、ムダな買い物を減らすための努力なのだ。
「――おっ、玉ねぎと人参が残ってる。今日のメニューは……カレーかシチューか、肉じゃがもいいかな」
とりあえず候補を三つに絞って、エコバッグに財布とスマホ、ビニール袋、自宅のカギを放り込んで、真樹は自宅マンションから徒歩十分のところにあるスーパーに向かった。
「――あっ、カレールーが安い! じゃあ、今日はカレーに決定だ!」
店内で特売品のカレールーを見つけた真樹が、その商品の甘口の箱とじゃがいもを二袋と、牛肉は高いので豚の小間切れ肉を買い物カゴに入れ、サラダも買おうとお惣菜売り場を歩いていると――。
「あら、真樹じゃない! 今日はお休み?」
「お母さん」
母の都美子に声をかけられた。母は真樹が住むマンションのすぐ近くにある、公営住宅に住んでいるのだ。
「あ、うん。あたしは今日休みだけど。お母さんも?」
真樹の家は母子家庭で、九つ年の離れた弟がいる。
都美子はパート勤めをしているので、平日である今日この時間帯に買い物に来ているということは、つまりそういうことだろう。