運命の恋人 ~上司は美しい悪魔の生まれ変わりだった~
それからというもの、京子は徐々に元気をなくしているように見える。
食欲も無いようで、やつれて衰弱していくのが外見からもわかるほどになって来た。
(…このままでは京子は大変なことになる…考え過ぎかも知れないけど…)
私はどうしても京子を助けたかった。
その為には、龍崎部長と話をしてみる必要がある。
恐い気持ちも、もちろんあったが龍崎部長と話をする決心をした。
(…怖いけど、京子は私が助ける…)
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「あの…龍崎部長。今、よろしいでしょうか?」
朝のミーティングが終了すると、私は龍崎部長に声を掛けた。
「あぁ、鈴木さん、何かな?」
「あの…龍崎部長にお話があるのですが…」
「…うん。なんだろう…」
「今日の仕事が終わってから、お時間いただけますか?」
「鈴木さんからデートのお誘いかな?良いよ。じゃあ今日の18時に部長室で待っているよ。」
「はい。ありがとうございます。」
私は軽く会釈をすると、緊張を隠すように歩き出した。
手足が震えていたのを、気づかれないようにするのも大変だった。
(…京子の為だから、頑張らなくては…)
私は顔を左右にブンブンと振って、自分を奮い立たせた。
嫌なことがある日に限って、時間は早く過ぎるものだった。
(…もう少しで18時だ…どうしよう…約束の時間だ…)
(京子は今日も元気ないし…)
(顔色も悪かったし…)
(…京子のためにも勇気出して…頑張れ私…)
緊張から心臓の音が煩い。
緊張で倒れそうだったが、部長室の前に私は立っていた。
(…もう引き返せないし…行くしかない!…)
“コンコンコン”
「どうぞ、入って。」
龍崎部長の落ち着いた低い声が、部屋の中から聞こえた。
「失礼致します…鈴木です。」
ドアを開けると、龍崎部長は部屋の奥にあるデスクに座り仕事中だった。
部長室に入るのは初めてでは無いが、大きなデスクに座りPCを見つめる部長の存在感に圧倒される。
端正な顔が、少し恐く感じて背筋がゾクッとするが、その姿は美しいとも感じてしまう。
「ごめんね…もう少しで終わるから座って待っていてくれるかい。」
ちらっと私を見た龍崎部長は、すぐにPCに目線を戻した。
「…はい。座らせていただきます。」
私は部長室のソファーに座った。緊張で手が震え冷たい。
カタカタ…部長がノートPCを打ち込む音だけが部屋に響いている。
静かな室内に、私の心臓の音が聞こえそうだ。
私は息が詰まり、そろそろ窒息するかと思っていた時。
カタン…パチン、ノートPCを閉じる音がした。