運命の恋人 ~上司は美しい悪魔の生まれ変わりだった~
龍崎部長は、私を抱き締めたまま頭をゆっくり撫でてくれた。
「鈴木さん、落ち着いたらシャワーでも浴びて着替えておいで…このままでは嫌だろう?」
私は洋服を引き裂かれ、向井の唾液で汚れていた。
「…はい。あの…お願いが…あります。シャワーから出てくるまで…ここに居てもらえますか?」
龍崎部長は優しく頷き微笑んだ。
「…いいよ。入っておいで。怖いだろ、居てあげるよ。」
私は急いでシャワーを浴びて着替えを済ませた。
「龍崎部長、ありがとうございます。お待たせしました。」
「 … 」
部屋から返事がなく、そっと覗いてみる。
すると、同時にドアがパタンと閉まる音がした。
今まで座っていたであろうソファーには龍崎部長の香がしていた。
(…龍崎部長…ありがとうございます…)
(でも…なぜ私が襲われるってわかったのだろう?)
(それに…向井を吹き飛ばす不思議な力…)
(…あれが、悪魔の力なの?)
(でも…私を守ってくれた…)
いろいろな事がありすぎて、頭がクラクラしそうだった。
ふと携帯電話を見ると、着信があったようだ。
「あっ、健斗だ…今日の事は健斗には言わないでおこう…心配かけるの嫌だし。」
「あぁ、健斗、電話くれたみたいだね、すぐに出られなくてごめんね。」
「恵美、…声が聞けて良かった…こっち来てから、クライアントに怒られてばかりでさぁ…さすがの俺も凹んでいるよ…でも恵美の声聞いて元気になったよ。」
「大変そうだね、でも健斗なら大丈夫だよ。頑張ってね。」
「おぅ、頑張るよ。恵美…愛しているよ。」
「ありがとう健斗。私も大好き。」
電話を切ったとき、胸がズキッっと痛かった。
健斗を愛していることに嘘はない。
…でも…
翌日、出社すると社内が何故かザワザワとしている。
何かあったのかなぁと思っていると、京子がいち早く情報を仕入れてきた。
「恵美、おはよう…大変な事件だよ。」
「…うん。何があったの?」
「営業部の向井先輩って知っているよね?」
その名前に心臓がズキッとする。
「…う…うん。知っているよ。」
「会社で自殺してたんだって。」
「…えっ、自殺?」
「…そうみたい。朝早く出社した人が見つけたらしいよ。」
(…向井が死んだ…自殺…?)
「ねぇ恵美、大丈夫?顔色悪いよ。」
「う…うん…だ…大丈夫。ちょっと驚いただけ…」
「驚くよね、いきなり会社で自殺なんてね…なにがあったのだろうね。」
(…本当に自殺なの…)
(…それとも…まさか…あの人が…)
暫くすると、マネージャーと龍崎部長が何かを話ながら歩いてきた。
マネージャーは営業部の人を集めて説明を始めた。
「もう知っている者もいるかも知れないが、今日の朝、向井君が自殺した。この事は大事にしたくないので、社外には絶対に口外しないで欲しい…」
マネージャーの話を聞きながら、龍崎部長に目を向けると、わずかに微笑んだように見えた。