運命の恋人 ~上司は美しい悪魔の生まれ変わりだった~
いつも月末は報告業務などで忙しい。
私は午前中期限の仕事を終わらせるために急いでいた。
マネージャーのところに、秘書課の男性、渡辺さんがやって来た。
「マネージャー、お忙しいところ申し訳ないのですが…午後に大事な来客があり、営業部から応援をお願いしたいのです。」
マネージャーは笑みを浮かべながら応えた。
「渡辺さん、それでしたら私が伺いますよ。」
渡辺さんは少し慌てたような表情を浮かべた。
「できれば…女性の方にお願いしたいので、鈴木さんにお願いできないでしょうか?」
マネージャーは少し困り顔になった。
私には今日中に報告の仕事があることをマネージャーは分かっている。
「鈴木さんは、まだ転勤してきたばかりで、分からないことも多いので、西条さんやほかの女性ではだめでしょうか?」
渡辺さんはその言葉を遮るように話し始めた。
「…上からの希望もありまして、鈴木さんに来ていただきたいです。」
そう言うと、渡辺さんは私のほうを向き、ニコッと微笑んだ。
マネージャーは、仕方なく私を行かせる返事をする。
上からの命令には逆らえないのが、会社というものだ。
優しいマネージャーは、私に申し訳なさそうに話し始めた。
「鈴木さん、…本当に申し訳ないけど、来客の手伝いに行ってくれるかね。上からの希望ということで仕方ないんだ。」
「はい…。承知致しました。少し不安ですが、行ってきます。」
来客の手伝いは慣れていない。
何故かわからないが、それ以外にも不安な気持ちがいっぱいだった。
すぐに私は渡辺さんに案内されて、最上階のVIP用応接室へ向かった。
会社でも役員や、大切な来客時のみ使われる応接室は、私も入るのが初めてだった。
カードキーを使い、電子ロックの重厚な扉を開けると、豪華な応接セットや高そうな壺に圧倒される。
私は今日のお客様について質問した。
「渡辺さん、本日のお客様はどのような方なのですか?」
「僕もよく知らないのです。鈴木さんをこのお部屋にお連れするのが仕事なので!」
「…えっ!!」
その言葉を残して、渡辺さんは素早く一人で部屋を出た。
“カチャ、ピ-”
ドアに鍵がかかる音がする。
私は嫌な予感がして、ドアを開けようとノブに手をかけるが!
“ブー、ブー”
ブザー音が鳴るが、戸が開かない…
「…うそでしょ…鍵が中から開かないんだ!」