運命の恋人 ~上司は美しい悪魔の生まれ変わりだった~
早乙女さんは私の表情に気づき、心配そうに瞳を覗き込んだ。
「…恵美ちゃん…辛い話だよね…でも…最後まで話は続けるよ…良いよね…?」
「…はい…大丈夫です。」
何故か、私は圭吾の過去に逃げてはいけないと感じた。
早乙女さんの表情からも痛いほど伝わった来る。
早乙女さんは静かに話を続けた。
「龍崎の努力は彼女にすぐに見破られてしまった。彼女は彼の気持ちに気づいてしまったんだ…。僕はね、彼女から相談とお願いをされていたんだよ。」
「…っえ?」
「恵美ちゃんを調べて欲しいとね…」
「僕は、本当のことを伝えるべきか悩んだ。でも、伝えることにしたんだ。」
「私のことをですか…?」
「…そう…君はルシファーが愛したリリスの生まれ変わりだと言うことをね。」
私はこの先の話を聞くことが恐くなった。
手が冷たくなり、なぜか震えている…
「その事実を知った彼女は、大きな衝撃を受けてしまった。僕の所為かも知れない!」
「…彼女は…その後どうされたのですか?」
「自ら…命を絶ってしまった…」
「…う…噓でしょ…そんなことって!!」
「最後の言葉は、君と龍崎が幸せになって欲しいと言っていたんだよ。」
…そんな…私の所為だ…
…私が…彼女を…殺してしまったんだ…
涙が溢れて止まらない…
何も知らなかった…
そんな過去があったなんて…
「…早乙女さん、私はどうしたら…良いのですか?私のせいで…そんな…命を絶つなんて!!」
早乙女さんはゆっくり首を振って、私を真っすぐ見た。
「恵美ちゃん、彼女の最後の言葉を忘れないで欲しい。自分の命に代えても、龍崎と君を幸せにしたかったのだからね。」
「…早乙女さん、でも…」
早乙女さんは、私の涙を親指で拭い、微笑んでくれた。
私はショックで何も見えなくなりそうだった。
「それでも龍崎は、君の幸せを考えて、すぐに自分の元に来なくて良いと言ったんだ。君には恋人がいたからね。優しい男なんだよ。」
「そ…そうだったのですね…」
早乙女さんは私の震える手を、落ち着かせるように温かく握りしめてくれた。
その時、後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえて来た。
「…早乙女!恵美に触るな…まったく!!」
振り返ると、急いで駆け付けた様子の圭吾が、息を切らせて立っていた。
その怒った表情に、早乙女さんがクスッと笑う。
お店の人は、椅子を引き、圭吾を椅子に座らせた。
圭吾は私の顔を覗き込み、泣いていたことに気づいてしまったようだ。
「…恵美、泣いているのか…?」
「ち…違います!」
「…早乙女!お前が泣かしたのか…?」
早乙女さんは笑みを浮かべながら、少し呆れたように話始める。
「…龍崎は、こう見えても、女心が分からない鈍い男だからな…」
「な…何が分からないんだよ…?」
「もっと、しっかり恵美ちゃんを安心させてあげないと…俺が奪うよ!!」
私は、思わず顔が赤くなってしまった
「め…恵美も、顔が赤いぞ…早乙女に照れるなよ…!」
早乙女さんは圭吾を真っすぐ見て話し始めた。
少し眉を寄せた、悔しそうな顔をしながら…
「龍崎、悔しいけど…俺はお前にいつも勝てない。大学のミスターコンテストも、お前が優勝で俺は2位だった…」
「早乙女、そんなこと覚えていたのか?」
「前世でも俺はお前に勝てなかったようだ…前世の俺はリリスを愛していたが、リリスはお前を心から愛していた…。そして今も、俺は本気で恵美ちゃんを好きになりそうだが、お前には勝てないよ!悔しいけどな!」
「早乙女!」
こんなにも完璧に見える早乙女さんが、圭吾に対してそんな思いがあったことに驚いた。
もちろんそれは圭吾も同じだったようで、開いた口が塞がらないとは、正に今の圭吾の表情だろうと思う。
早乙女さんは、突然立ち上がり笑顔を作ってウィンクした。
何故かその表情が苦しそうに見えて、心が締め付けられた。
「僕はそろそろ失礼しようかなぁ。龍崎、恵美ちゃんを泣かせるなよ!」
「な…なにを言うのだ。泣かしたのはお前だろ!」