【完】夢見るマリアージュ

母は寂しい人なのだとその時に初めて気が付いた。
父の帰って来ない家でひとりぼっち。愛される事を知らなかった女性。

素直に愛される事を拒んだ人だと、歳を取った母の姿を見て初めて気が付いた。 強がりばかりで身を守って来た女性だ。

けれど私は母のように愛される事をもう怖がったりしない。 それは何度も思い返しても、北斗さんと巡り合えたからだ。

’大好きな人と結婚して、温かい家庭を築きたい’ 絶対に無理だと願った夢から、もう逃げない。

私は今、北斗さんと一緒に暮らし始めている。

「香ちゃん、これバターもう混ぜちゃっていい?」

「うん。大丈夫。 ちょっとずつ混ぜていってね」

「了解~。う~ん、もうこの時点で良い匂い。」

キッチンで二人で立って笑い合う。 不意に優しい眼差しで北斗さんが私を見つめているのに気が付く。

そうだった。この人は出会った時から、私をずっとこの変わらぬ優しさで包み込んでくれた。 だからいつだって安心出来たんだ。

二人して相変わらずお菓子作りが共通の趣味で、休日には一緒にお菓子作りをしたりカフェ巡りをしていた。

静かに流れていく時間の中で、夢にまで見たとびっきりの幸せを手に入れた。

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