【完】夢見るマリアージュ
大人しいかと思えば、自分を否定する時はやけに早口になるのだな。
こちらを向いた城田さんはハッとした顔をし、「すいません…」とまた消え入りそうな声で言って下を向いた。
ちょうどその時、エレベーターが一階へと着く。
ボタンを押して「どうぞ?」と言うと、彼女は逃げるように鞄を両手で持って小走りで立ち去ろうとした。
「そんな慌てて帰らなくっていいよ。 駅まで一緒に行こう」
そう言うと、足を止めた彼女がこちらを向いて明らかに戸惑ったような顔をする。
「駅までの道でも夜は危険だよ。 頼りにならないかもしれないけど、一応男だし」
苦笑しながらそう言うと「そんな…」と彼女は言ってまた俯いた。
女性にしては早足な方だったと思う。 カチコチに固まって、手と足が一緒に出る彼女を見ていると思わず笑みが零れた。
駅まで続く並木道には僅かに色の変わった木々たちがきらめきを見せる。 金木犀の甘い匂いが鼻を掠めて行く。 秋か。時間が流れるのは本当に早い。