【完】夢見るマリアージュ
私は地味で、面白みもない質素な生活がお似合いなんだ。 母だって言っていた。男になんか期待しちゃいけないって。
うどんを煮込んでいる間にテーブルに放置していた携帯を手にすると、思わずつるりとそれが床に落ちた。
「う、わあ…。壊れてないよね?」
慌てて拾い上げた液晶をチェック。どうやら割れてはいないけれど、画面には新しいラインの通知が一件。
阿久津 北斗 の名前と共にリリーの愛らしい画像が写し出される。
「本当にラインが来るなんて……」
心臓がバグったかのようにドキドキが止まらない。
文章と共にリリーの画像が送られてきた。
『無事、家に帰れた?
今日は遅くなったから、リリーが寂しがってた!』
真っ白でふわふわの毛並みに、赤い鼻。 真っ黒な瞳のうさぎ。 …やっぱり私になんか全然似ていない!
キッチンに立ちながら北斗さんへと返信をする。
両手で持つ携帯がブルブルと震える。 お風呂に入ったばかりなのに、額を汗が濡らす。
顔を見ると上手に喋れない。 でも文章ならば大丈夫。 落ち着いて一文一文考えられるから。 思い返してみれば、今日は北斗さんを前に挙動不審すぎた。
絶対変な奴に思われたに違いない…!