【完】夢見るマリアージュ
「また、残っている。 はい、珈琲。」
「北斗さん!ありがとうございますッ!」
今日も今日とて、残業。岸田さんの仕事を頼まれたのだ。 単純なデーター入力なのでまだ有難い。
それに金曜日の残業は嫌いではなかった。 岸田さんは、やれ合コンだ飲み会だと会社の女性を連れ出して夜の街に繰り出したらしい。
北斗さんは…?と思ったけれど、私の金曜日の楽しみ方は岸田さんや他の女性社員達とは少し違う。
そして今日も北斗さんは誰も居なくなった営業部に缶コーヒーを持って来てくれた。 それだけでこんなにも金曜日が特別な物になっていく。
「簡単なデーター入力だ。 俺も手伝うよ。半分にしたら早く終わる。」
そう言って北斗さんは私の隣のディスクに腰をおろす。
グッと近くなった距離に、ドキドキを隠せない。
’勘違いしちゃいけない’平常心を保ち、なるべく冷静に振舞う。 舞い上がっているなんて悟られたらそれこそ恥ずかしいじゃないか。
「いえ、これは私の仕事なので。」
「いやいや、元々は違う人の仕事でしょう? だって城田さんって真面目じゃない。 自分の仕事だったら就業中に終わらせちゃうでしょう。
いつも見てて思ったんだ。人に仕事押し付けられてるのに嫌な顔の一つもせずに真面目で偉いなあーって」