ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 そのとき、王妃に目通りを求める者の来訪が告げられる。

「恐れながら王妃殿下。ハインリヒ王太子殿下のお言葉を届けに参上(つかまつ)りました」

 頭をたれてその者は続けた。

「アンネマリー・クラッセン侯爵令嬢を、今日一晩、王妃殿下の離宮にて保護していただけないかとのご伝言です」
「アンネマリー嬢はリーゼロッテ嬢の従姉(いとこ)だそうですよ、イジドーラ様」

 リーゼロッテ嬢を心配して王城に居残ったみたいです、とつけ加えながら、灰色の髪の少年、カイは、王妃の許可もなく立ち上がった。

「あらそう」

 カイの無作法ぶりを気にとめた様子もなく、王妃はしばらく考えをめぐらせた。

 イジドーラとカイは、叔母・甥の間柄である。ときおり、王妃様と家臣ごっこをして遊ぶのが、ふたりのブームだった。

 まわりの者は、もう慣れたとばかりに静観している。要は、諦めたのだ。

< 126 / 2,233 >

この作品をシェア

pagetop