ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 王妃は閉じていた扇を再び開いた。

「ミヒャエル司祭枢機卿のもとには、わたくしが赴きます」
「えぇっ? でも、イジドーラ様、あのハゲデブオヤジのこと、すんげー毛嫌いしてるじゃありませんか」

 王妃の言葉に、カイはびっくりしたように言った。

「いいのよ。ハインリヒには休息が必要だわ」

 主に疲れさせているのは、王妃本人なのだが、そこに突っ込む者はいなかった。

「そのかわり……シネヴァの森の奥底に、かわいい子猫が迷い込んでしまうかもしれないわ……」

 王妃は、カイに向かって意味ありげな視線をよこした。つられてカイが、いたずらを思いついた子供のような顔になる。

 飛び込んできた子猫を逃がす手はない。だが、もう少し算段を整えなくてはならないだろう。最大限の注意を払わなければ――かわいいハインリヒが、悲しむことのないように……。

「カイ。そのときは、くれぐれも……ね?」

 イジドーラとカイは、見つめ合ったまま、どちらともなく不敵な笑みをうかべる。

「仰せのままに。王妃殿下」

 カイは恭しく腰を折り、イジドーラに頭をたれた。

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