ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「お嬢様、この石は……?」

 エラが不思議そうに石をのぞき込んだ。リーゼロッテが大事にしていたペンダントは、もっとくすんだ青銅色だったはずだ。

「ジークヴァルト様に石を綺麗にしていただいたの」

 公爵の名にエラの表情がひきつった。

「エラ。今日、ジークヴァルト様とお会いして、わたくし、ジークヴァルト様を誤解していたことに気がついたの」

 あわてて言葉を紡ぐ。

「ジークヴァルト様は、とてもお綺麗で、力強いお方だったわ」

 綺麗なのは瞳の色で、力強かったのは頭部をつかんでいた大きな手なのだが。

 王子殿下に聞いた龍の託宣のことを、エラに話すわけにいかなかった。エラの心配が解ける程度のことを話して、リーゼロッテは、はにかむように笑った。

 大切な主人の久しぶりの心からの笑顔に、エラはぱあっと顔を明るくした。

「まああ、それはようございました!」

 エラは公爵に目通りしたことはない。毛嫌いしていたのはリーゼロッテが悲しい顔をするからであって、公爵本人に恨みがあったわけではなかった。

 リーゼロッテがジークヴァルトを受け入れるのであれば、否はなかった。リーゼロッテを幸せにしてくれるのなら、公爵が本物の魔王だったとしてもエラは受け入れたことだろう。

< 131 / 2,233 >

この作品をシェア

pagetop