ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「そうでございます、リーゼロッテお嬢様! 王子殿下と言えば、女嫌いで有名な方です! それなのになぜっ」

 同じようにエラも、怒りの表情でリーゼロッテに言いつのった。

「はっ、もしかして、公爵様の婚約者であるお嬢様に王子殿下が嫉妬をして、嫌がらせをしようとされているのでは……!?」
「そうよ、エラ! 王子殿下は公爵閣下に懸想して、リーゼに嫉妬の炎を燃やしているのだわ!」

 ふたりの中で、王子の男色説が確定事項になりつつあった。ハインリヒの名誉のためにも、リーゼロッテはあわててふたりを押しとどめるように言った。

「そんなことはないわ! ハインリヒ王子殿下は思慮深く、とてもおやさしい方だったわ、本当よ!」

 リーゼロッテが声を荒げる姿など、エラはリーゼロッテに仕えてから一度も見たことがなかった。その様子におかげで、エラは少し冷静になった。

「……本当に嫌がらせなどはございませんか?」

 エラの言葉に、リーゼロッテはこくりとうなずいた。

「お噂と違って、王子殿下はよく笑われる方だったわ」

 むしろ笑いすぎなくらいである。

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