星の群れ
 僕が主の許可なくこの部屋に入ることは、特別珍しいことじゃなかった。一応普段は「勝手に入るな!」と言いつけられているものの、時にはそれを無視しなくては、他ならぬレーテ女史が危ない。研究熱心すぎる魔術師は寝食を忘れたあげく、部屋で倒れていることがしばしばあるのだ。

 部屋は相変わらず、凄惨な有様だった。

 今にも燃えつきそうなランプの炎が、ちらちらと最後の気力を振り絞って揺れている。そのたびに、ぼんやりと浮かび上がる部屋が奇妙に表情を変える。

 昼間見たなら無かったことにせずにいられないこの部屋の惨状も、夜にこうしてわずかな灯りの下で見ると、何やら意味のある厳かな空間に思えてくるのが不思議だ。

 やれやれ。僕は足元に散乱しているものを拾っては近くの山の上に載せながら、無理やり道を作り奥に進んだ。

「レーテー。せんせー」

 呼んではみるものの、部屋の中に女史がいないことは明らかだ。

 この部屋は、奥にバルコニーに続く戸がある。

 先々代の主が、空を愛した奥方のために設えたバルコニー。そして現在の主も、どうやら先祖の血を受け継いだらしい。研究室兼寝室をここにしたのも、バルコニーに一番近い部屋だからだということを、僕は知っている。本人は決して認めたがらないけれど。

 僕はティーカップを手にしたままバルコニーへ出た。
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