星の群れ
 ――元は農家に生まれた一人の少女がいた。少女は大病を患った挙句、一命は取り留めたものの歩く方法を奪われた。そうなるともはや農家では用無しだ。両親は即座に娘を売った。

 引き取ったのは、隣村の仕立て屋だった。以来少女はただの一度も、実の家族とは顔を合わせていない。

 一言も故郷への思いを口にしたことがないかの少女は、その代わりよく空を見た。思えばレーテがよく空を見上げて熟考するようになったのも彼女と知り合ってからかもしれない。

「―――」

 僕は空を見上げる。

 無邪気な子供が、星色絵の具を撒き散らしたような空。隣の村から見ても同じ景色が見えるのだろうか。そんなことを思う。

「……流れ星に願いごとをすると、叶うらしいね」

 呟くと、鼻で笑うような声が聞こえた。

「何を馬鹿なことを」
「そうでもないよ? 大体昔からの言い伝えって何気に根拠があったりするデショ。実は本当に、流れ星にはそんな力があるかもしれない」
「あらそう。いいわ、その説を考えに入れても。そのほうが願ったり叶ったりだわよ、星が抱える力の問題としては――」

 うふふふふ、とレーテ女史は笑った。獲物を捕らえようとする山姥だな、と僕は思った。そんなことを口にすれば、山姥の包丁の餌食になるのは僕だけども。

「――あの星の数! 全部集めたらどれくらいの力量になるのかしらね?」

 とうとう魔術師は、勢いよく立ち上がった。バルコニーの手すりに手を置き、相変わらずの鷹揚な風に身を任せる。アンナ嬢の仕立てた赤い服のスカートがひらひらと戯れている。女史の後ろ姿はいつも、一枚の絵画のようだ。

 ――だけれど僕は、絵画を鑑賞したくてその背中を追ってきたわけじゃない。
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