悪魔の僕は天使の君に恋をする
ルナが教室に戻ると、景太が台本を持って必死に台詞を確認していた。


「景太、衣装合わせだって」


「……分かった」


素直な景太の様子に、ルナは少し驚いて言った。


「潔く捕まったんだね」


ルナの言葉に、景太は苦笑いを浮かべた。


「……っていうか、追い返されてな」


「追い返された?」


「ああ。……グラウンドまで逃げたら、百合に追い返された」


……そういえば、景太は今百合に避けられているのだった。彼女の様子はどうだったのだろう。


「雨宮さん、どうだった?」


「……何ていうか、気を張ってたよ。久しぶりに会話したからかもしれないけどさ。」


景太は少し辛そうに笑った。


「俺、何しちゃったんだろうな」


滅多なことじゃ動じない景太だったが、今回は少し悩んでいるようだった。


(雨宮さん、一体どうしたんだろう……)


「……って、衣装合わせに呼ばれてるんだっけ。場所は?」


「ああ、隣の空き教室だよ。藤堂さんが待ってる」


「分かった。行ってくる」


景太は空き教室に向かって走って行ってしまった。


(景太と雨宮さん、どうにかして仲直り出来ないかな……)


ルナが頭を悩ませていると、百合が教室に戻ってきた。


「あ、雨宮さん!部活は?」


「あ、黒崎君……文化祭前で人が集まらないから早めに終わったの」


ルナは迷った末に悩んでいたことを尋ねてみた。


「ねぇ、景太と何かあった?」


「え……」


「景太、最近元気ないんだ。雨宮さんと話せてないって……」


「そう……なの」  


「何か悩んでるなら、僕で良ければ相談に乗るし……」


百合は少し動揺したようだったが、すぐに首を横に振った。   


「大丈夫。何でもないから」


そう言って笑う百合は、少し無理をしているようだった。


「……私、帰るね。黒崎君も劇の練習頑張って」


「雨宮さん……」


ルナは教室から逃げるように帰る百合を見送ることしかできなかった。



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