悪魔の僕は天使の君に恋をする

公園に辿り着いたルナは深呼吸をした。

桜のシーズンはもう終わり、緑の香りが鼻をくすぐる。

犬の散歩をしているおばさんもいれば、ブランコで遊ぶ子ども達、病院の近くと言うだけあって患者と思しき人の姿もあった。


「のどかだな～」


景太の声にルナは頷いた。

この1年で慣れきってしまったが、年中薄暗くマグマが剥き出している魔界では見ることができない景色だ。


（本当にいいところだよな、現世って……）


ルナが平和を堪能しているときだった。

コロコロと足下にサッカーボールが転がってきた。


「サッカーボールだ」


ルナは腕を伸ばしてボールを手に取ると、まだピカピカの新品なのが分かった。


「すみませーん」


しばらくして、遠くから持ち主らしき人物が駆け寄ってきた。


「サッカーボール飛ばしちゃって……」


その、少しハスキーな声をした少女にルナは目を釘付けにされた。

色素の薄い髪、空色の瞳、色白な肌、スラリと伸びた手足。

その全てに目を奪われる。


（綺麗な人だな……）


「ねぇ、君」


ルナが見とれていると少女は僕に声をかけてきた。


「あ、はい！」


「ボール、返して欲しいんだけど……」


そう言われて、ルナは自分がボールを持ちっぱなしだったことに気がついた。


「あ、ごめん！」


慌ててボールを返すと、少女はクスクスと笑いながら言った。


「君、翔北高校の黒崎ルナだよね？」


「ぼ、僕のこと知ってるの？」


「ああ、去年の新人戦全国大会、弟とテレビで観てたんだ。翔北のエースディフェンダーでしょ。随分活躍してたからね」


その言葉にルナは顔を赤らめた。


「それにしても、事故に遭ったって話は本当だったんだね。ボクの高校でも話題になってたよ」


「そういえばその制服……南野女子高校のよね。超進学校って有名な」


百合の言葉に少女は頷いた。


「そうだよ。うちの学校にも翔北サッカー部のファンは多いからね。特に君とか」


少女は景太を見て笑いかけた。


「俺が？」


「そう。花里景太。高校生の中じゃトップクラスの実力に加えて、イケメンで格好いいってさ」


「そうなのか、ありがとな」


頭をかきながらそう言う景太を見て、ルナは少しモヤモヤとした気持ちになった。


（……何かモヤモヤする）


「長話しちゃったな。そろそろ弟の所に戻るよ」


そう言って立ち去ろうとする少女に、ルナは慌てて声をかけた。


「君、名前なんて言うの？」


すると少女はニッと笑って言った。


「白神ハル。脚、おだいじに」