悪魔の僕は天使の君に恋をする
しばらくして、夕方5時のチャイムが鳴った。


「あ、もうこんな時間か」


ハルはルナの車椅子を握った。


「そろそろ帰らないと。……涼介、また来るからね」


「分かった!」


良い返事をした涼介はルナに満面の笑みを浮かべて言った。


「ルナもまた来てね。絶対だよ!」


「うん。もちろん!」


ルナはそう言って笑顔を見せる。


「……さて、病室まで送っていくよ」


ハルはルナの車椅子を押して病院の廊下を歩いた。


「涼介と話してくれてありがとう。嬉しそうだったよ」


「うん。僕も楽しかったよ」


やはり部活が忙しいのか、景太と百合は頻繁には来てくれない。そんな中で寂しさを感じることもあったが、涼介と話してその寂しさも薄れた。


「…涼介はね、まだ11歳なのに、難病で学校に行ったことがないんだ。だから、友達もいなくて。お見舞いに来ても元気のないことが多かった」


「そうだったんだ……」


「でも、今日の涼介はいつもより元気だった。君のお陰だね」


「そんな、いいんだよ、僕も楽しかったし……」


「ふふ……君はお人好しだね」


「そうかな?」


「そうだよ。急に連れて行かれたのに、文句1つ言わないで楽しかったなんて……」


言われてみればそうだ。半ば強引に連れて行かれ、1時間も拘束されていた。普通ならば怒るだろう。

しかし、ルナにとっては些細なことだった。


「でも、涼介君もハルさんも喜んでくれたから、いいんだ」


そう言って笑うとハルは少し照れ笑いしながら言った。


「ハルさんじゃなくて、ハルで良いよ。ルナ」


「……うん!」


そんな2人を見ている影があった。


「ルナ君……」


菫はお見舞い用の花を持ったまま、病院から逃げるように帰って行った。




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