トシノサ恋 〜永久に…君に〜 番外編
それから…
ドイツ語の授業の度に彼女の姿を探すようになっていた。
彼女を見つけるとなぜか、鼓動が少しだけ早くなった。そして俺は彼女がよく見える位置に移動して、見つめるようになっていた。

そんなある日…彼女が珍しくドイツ語の授業に来なかった。
゛今日は休みか?゛

そう思って、いつものようにテキストを読んでいると…

「すみません…隣…いいですか?」

「…え」

声のする方に顔を向けると…
彼女だった。

「あ、はい…っっ」

俺は必死に冷静さを保ち、荷物を急いで端に寄せ、席を空けた。

「…ありがとうございますっっ」

彼女は、少しだけ息がきれていた。
走ってきたのかもしれないな…。
いつも離れた所にいた彼女が俺の隣にいる…。

色白で華奢な身体…肩までの綺麗な黒髪…澄んだ瞳に桜色の唇…。
清楚…って言葉がよく似合う人だった。

彼女が隣にいると思うと…
なぜが、胸の鼓動が早くなっていく。

「では、出席表とプリントを集めますので、もってきて下さいっ。」

ふと我にかえる…ヤバ…全然話しを聞いてなかった…
目の前のプリントに急いで目を通す。

「あの…」

「え?」

見上げると彼女が俺のすぐ横にいた。

「…これ、よかったら…」

そう言って、彼女は俺にプリントを渡した。

「え…でも…悪いから…」

急な申し出に俺は躊躇していた。

「…いえ…この前、辞書かしてもらったので…
おあいこです。」

そう言った彼女は、フッと笑顔になった。

ドキンッッッ……………ッッッ

「…あ…ありがとう」

それだけ言うと俺は彼女からプリントを受け取った。

゛奥平 紗和 (おくひら さわ)゛
そう書いてあった。
紗和って言うのか。
彼女が、教室から出ていくのを見送った後も、しばらく胸が静まらなかった…。

それが、彼女との出会い…。
この胸の鼓動は一体なんなのか…
俺がそれを何なのか自覚するまでに、そんなにはかからなかった。

それから、程なくして…
登山部の新入部員歓迎会に彼女は現れ、俺は2年間…彼女に片思いをした。
そしてやっと卒業の時に想いを告げた。
絶対に振られると思ってたから…奇跡だと思った。

それから5年間…幸せだった。5年も付き合ってると冷めるなんていう奴がいるが、俺は彼女への想いは変わらなかった。むしろ、大きくなる一方…。

紗和は、本当によく笑う子だった。笑った顔が本当に可愛かった。
俺が抱きしめると、嬉しそうに笑ってくれた。
そんな彼女が好きで、好きで…本当に好きでたまらなかった。
紗和を守るのは、この先ずっと俺だと思っていた。

仕事が忙しくてあまり会えなかったが、彼女を思うと何でも頑張れた。どんなに辛くても…紗和の笑顔で乗り切れた。
そして、仕事が一段落ついた頃…思い切って紗和に、プロポーズした。
…紗和と幸せな家庭を作っていきたい…ただそう思っていた…。変わらない…紗和も俺もずっとずっと…変わらない…そう信じていた。

あの時…紗和が知らない男と歩いているのを見るまでは…。




















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