トシノサ恋 〜永久に…君に〜 番外編
「…紗和?」

光くんが私の顔を心配そうに覗き込む。

「…なんでもないよ…私一人で歩けるよ…」

「…やだ」

え?

「……どうして?」

「…紗和が俺のそばにいないとやだ…」

彼の声がまるで小さな子どもみたいに聞こえる。
まるで…昔に戻ったような感覚…
昔もこんなふうに…
子どもみたいに甘えてきたことがあった。

「…うん」
私は…ただそれだけで
幸せな気持ちになる…
私も隣にいたくて彼の腕に顔を付けて歩き出した。

その瞬間…
彼は私の腰をポンポンと2回優しく撫でた。まるで頭を撫でるのと同じように…。
光くんの優しさが伝わってくる。
…彼が好き。

彼の横顔をこっそり見上げる…ちょうど彼の喉仏が見える。
そして彼の整った横顔…長い睫毛…
あの頃と何も変わっていない。
でも…今の彼はもうすっかり大人の男の人…。

「ねえ…紗和…」

「うん?」

「ワンピース…めちゃくちゃ似合ってるよ…」

「…ありがとう…」
昔も…そう言ってくれた。
ずっと…
変わらないでいてほしい…。

もし、またいつか勝平に会うことがあっても…
やっぱり…私は許してほしいなんて言えない。
私の身勝手さを…許せなんて言えない。

「…あのさ…俺…病気みたい…」

「…え??」

「…心臓が辛い…」

「え?心臓…?痛いの?」

どうしよう…何かの病気?今からやってる病院あるかな?

私がスマホを出して検索しようとした瞬間…

ギュッッ…
気がつくと両手を光くんに握られた。

「…………っっ?!」

「光…くん?」

私達…今、道の真ん中で向き合って手を握っている状態…よね?

「…どうしたの?苦しい?」

「…うん…凄く…」

「…え」

「紗和の事考えると苦しくなる…
教えてよ…何で…悲しそうな顔してるの?」

「…え、何…?」

「…さっきからずっと…元気ないじゃん。
心配なんだ…紗和が何を考えてるのか気になって仕方ないっ。
俺をこんな気持ちにさせる…苦しくなる。」

私の顔を覗き込むように光くんが見つめている。

「…ごめんなさい…」
消え入るような小さな声…
涙が溢れて止まらなくなる。
泣き顔を見られたくなくて下を向く。

ごめんなさい…
あなたがくれた時間と温かさが…大切で。
痛いくらいに感じられて。
光くんと出会ってから過ごした日々が…
楽しすぎて…。
誰かを苦しめてた事なんて…すっかり忘れてた。

「…紗和…どうしたの?何で泣いてるの…」

早く泣き止まないとっ…ハンカチ…
バッグの中に…手…繫がってて無理…取れないよ…

「て…手…離して……、っ…ヒック…」
泣き声で殆ど声が出ない…

ガバッ…

「…………っ!」

気づくと私は光くんに抱きしめられていた。

「…俺の服で拭いていいよ…」

光くんが私の耳元で優しく囁いた。
少し掠れたハスキーボイスの優しい声…。
この声…安心する。

「紗和…聞いて…。
俺…自分の弱さも幼さも…紗和が見つけて受け止めてくれたから、これからは俺が…紗和の弱さも幼さも見つけて受け止めたい。
そして…全部、紗和と分かち合いたい…支え合いたい。
俺は…紗和がいるだけでそこに未来が見える気がするんだよ…。紗和がいるところに、いつも迎えに行く…どこにいても何度でも迎えに行く。紗和の場所まで行くからさ。

ねぇ、知ってた?
俺のほしかったものはいつも紗和がくれたんだよ…。
空の色とか、花が綺麗に咲くとか…紗和が笑った顔を見ることとか…全部…。
だから今、幸せなんだ…。
痛いくらいに幸せ…。
紗和…全部教えて…全部守るから…。
不安や…寂しさ…全部、俺に教えてよ。
俺の心は…いつも紗和にだけ反応するから…。
だからさ…安心して何でも言ってほしい。」

こんなセリフを…恥ずかしげもなく言ってしまう彼…
光くんが私の背中を小さな子どもをなだめるようにトントンとしながら優しく話してくれる…。
これじゃあ…また、どちらが年上かわからないよね。
いつも私…頼りなくて…
そんな私にいつも欲しい言葉をくれて安心させてくれる人…。
そんなあなたが…本当に好き。

「…好き…光くんが好き…」

…バカみたいに素直な言葉が出てきてしまう。

「…紗和」

「あの…あのね私…昔を思い出して…自己嫌悪で…私がしたように…光くんが…私を好きじゃなくなったら…どうしたらいいのか…私…勝平みたいにできない…離れれない…」

涙がまた溢れてしまう。

その間も光くんは私の背中を優しく擦ってくれている。

「…紗和…俺だって、同じだよ…離すことなんてできないよ。」

「…うん…」

そうだよね…今の気持ちが大事なんだから…。

ようやく気持ちが落ち着いてきたのが伝わったのか光くんが私の肩を抱き寄せると、ゆっくりと歩き出した。

「そもそも…紗和…何でそんな昔の事…考えてたの?
しかも…不安になって…胎教に悪いからもう考えるの禁止…」

そう言って彼が私に優しく笑っている。
妊婦の訳のわからないヒステリーにも付き合ってくれて…
いつも優しく笑って私を見てくれる…光くん。
私に甘すぎるよ。
そして、甘えてしまってごめんなさい。

「…それが…今日ね、カフェでお茶している時…向かいの道に、勝平に似ている人がいた様な気がして…
一瞬、目が合ったんだけど、私…今コンタクトの度が合わなくて…少し見えにくくて、わからなかったの…。
だからかな?日向子にも会って…昔話を沢山したからかな…?」

「へぇ…他人の空似かな?
まぁ…そろそろ帰ろうか…
何だかんだで7時過ぎてるし…」

”他人の空似かな?”
そう言った光くんの口調が少し変わった気がした…

え??!7時??

「え?!うそ、7時?
日向子と別れたのが6時過ぎ…」

私…1時間くらい…
泣いたり、落ち込んだり…

「…ごめんなさい」

通りで、さっきから…身体がツライ…
お腹がかなり張ってる気がする…
それに…足が痛い…
私は、また落ち込んでしまう。

「ちょっと待ってて…」

そう言うと光くんが走っていく。
それから…2分くらいすると…
光くんが走って帰ってきた。

「紗和、タクシー停めたから行こう。」

「え、タクシー…」

ここから、タクシーだと40分以上はかかるのに…

「…光くん…電車で大丈夫だよ?」
余分なお金…かかっちゃう。
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