トシノサ恋 〜永久に…君に〜 番外編
②澤山 勝平編

君と初めて出会ったのは大学2年の春だった。
 
……………16年前

「なぁ、澤山…今年の登山部は入部希望者がけっこういるらしいぞ…しかも女子もいるって…っ。」

そう言って浮かれた声で話しかけてきたのは、同じ学部の檜山雅人(ひやま まさと)だった。

はぁ…コイツは口を開けば女の話ばかり…

俺は、ドイツ語のテキストを読みながらいつもの様に檜山の話しを聞き流していた。

「…おい…澤山〜聞いてるか?」

「なぁなぁなぁ…聞いてるか?」

そう言いながら俺の肩を揺らしてきた。

ああっ!…ホント、コイツは…いつも俺のペースを乱すよなぁ…

「…聞いてるよ…」

そう答えると、檜山は少し満足した様に続ける。

「それがさぁ…女子…5人もいたんだって!すげーだろ?!奇跡だぞっ!女子が5人もなんてっっ…」

…あ、そう…
飽きずに、女子の話かよ。
ふぅ…
俺の小さな溜め息を檜山は聞き逃さない。

「まぁ…お前にとって女子なんて…そんなに珍しくはないかもだけどさ…」

そう言って檜山は俺の隣で突っ伏してしまった。

なんだよ…ガキかよ?
はぁっっ…まったく…

「…わかった…じゃあ、勧誘しないとだな…」

そう言いながら俺はまたテキストに目をおとした。


ガバッッッ!!!!

「だよなーっっっ!じゃあ…少し身長わけてくれない?」

檜山が復活するのを少し笑いながら俺はお決まりのセリフを言った。

「バカか?」

俺の突っ込みにいつも満面の笑みを俺に向ける檜山を俺はなぜか…憎めなかった。




あれは忘れもしない…4月のドイツ語の授業…。

ピピ…

檜山からのメール…

゛澤山〜
一生のお願いだぁ…代返頼む…゛

はぁ?!代返できるワケ…ねーだろ!
この教授はめちゃくちゃ厳しいんだから…
そう心の中で突っ込んだ瞬間…

「…すみません…隣…いいですか?」

気がつくと俺の隣に女子が立っていた。

「…あ…どうぞ」

俺は愛想のない声で、自分の席を横にズレて荷物を端に寄せた。
゛はぁ……゛
少しだけ、苛ついた気持ちになる。
何故かというと、俺は昔から…見知らぬ女子に話しかけられる事が多かった…。
その度に好きだとか…何だとか…。
本当に面倒くさい…。
自分で言うのは気が引けるが…俺はまぁモテるのだろう…。檜山曰く…身長178センチの細身の超絶イケメンらしい。
超絶ってところがアイツらしい表現で笑えたけど…
俺にとっては生まれてからこの容姿なわけだから…
そんな事気にもしていなかった…。
けど、どうやら世間では一目置かれるらしい。羨ましいとか言われても俺にはピンとこなかった。
それに…俺はどちらかというと、女にはあまり興味がなかった。
むしろ、女は面倒くさい存在…そう思っていた。

「…ありがとうございます…」

その子は、軽く会釈をすると俺の隣に座った。
珍しく俺の方を見ることなく、教科書とノートを急いで準備していた。俺には目もくれなかった。
あ…本当に座りたかっただけ…っ?
それに…何かまだ慣れてない感じ…多分1年生か?

俺、バカか…。勘違い…。心の中で自意識過剰な自分に突っ込んだ。
俺はそれ以後…
特に気をとめる事もなく授業に集中した。

「あ…あの…」

その子が、急に俺の顔を伺うように覗き込んでいる。
目と目が合った。
俺の目の前が彼女の顔でいっぱいになった。
ドキン……………ッッッ

「…え?」
なんだ?今の…

「…すみません…辞書…かりてもいいですか?」

申し訳なさそうに顔を見つめてきている。

「…あ、いいよ…」

俺は焦りながら辞書を手渡した。
…というか、そんなに申し訳なさそうにしなくても…
それより、何で俺は動揺したんだ?

「あ、ありがとうございますっ!」

ぺら、ぺら…

彼女は、何度も辞書をめくってはノートに書き写していた。
真面目だな…
…めちゃめちゃ辞書引いてるし…
…すげぇ一生懸命…
不純な事を思って…悪かったな…。

気がつくと俺は、何度も彼女を見ていた。

キーンコーンカーンコーン…

「あ…あの…」

「…え?」

「辞書…ありがとうございました…
実はまだ辞書…買えてなくて…本当に助かりました。」

そう言って彼女は足早に立ち去って行った。

俺は…なぜか… 
その場から立ち上がれずにいた。
ただ…彼女の顔が頭から離れなかった。
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