あわよくば、このまま
なにか話しかけるべき?
ろくに目も合わせられないのに?
ていうか授業中もしどろもどろにしか話せなかったのに、まだ無理!
1人で悶々と考えながら歩いていると、いつのまにか止まっていた藤の背中にぶつかりそうになった。
「うわっ……と」
慌てて1歩、2歩と後ろに下がる。
え、えっ?
急に止まってどうしたの?
突然のことに驚いていると、くるりとこちらを振り向いた藤と目があった。
その表情は、いつになく真剣で。
「なぁ」
こっちの棟は人通りが少ないからか、やけに藤の声が響く。
「もしかしてさ」
……もしかして?
もしかして、何?
もしかして、昨日のことがバレた?
心臓がどくりと嫌な音を立てるのがわかる。
え、どうしよう。
なんて言えばいい?
あれは偶々だよって?
本当は聞く気なかったって?