あわよくば、このまま

「藤? どうしたの?」


気づけば藤は口元を押さえながらどこか違う方向を向いていて。


流石に1人で盛り上がりすぎちゃったかな?と反省。


……何見てるんだろ?


同じ方向を見ても特になにもない光景が広がっていて、藤が何を見ているかわからない。


強いて言うなら、掃除してない人に注意してる先生がこっちに歩いてきてるくらい。


「あー……、いや。なんでもない」

「そう?」


そう言ってこっちを向いた藤はいつもと変わらなくて、結局何だったのかよくわからなかった。


「こらー、そこ。掃除しろー」

「はーい」


いつのまにかここまで歩いてきた先生に私たちも注意されたので、大人しく掃除場所に行く。


といってもすぐ目の前なんだけどね。


「秋宮」

「んー?」


掃除用具入れからほうきを手に取った時、ふいに藤から声がかかった。


「あー、なんていうか……」

「?」

「その、ありがとな」


え、なにが!?


お礼を言われたものの、何に対してなのかがさっぱりわからない。


私、何かしたっけ?


でも目の前の藤が、なんだか自信に満ち溢れたような笑みを浮かべていたから、そんなことは全部どうでもよくなって。


「どういたしまして!」


つられて、私まで笑顔になったのだった。

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