あわよくば、このまま

「ほら、少し筋肉ついてるだろ?」
「そう?」
「全体的に太くなってるじゃん!」
「いや、あたし寺田の身体のことそんなに知らないし」


隣は隣でなんだか盛り上がってるみたいで、里帆に注意されない程度の範囲で、寺田くんが袖を捲っている。

……まぁ寺田くんが盛り上がってると言われたらそれまでなんだけど。


「むっ、確かに。な、怜也!」
「いや俺も祐介の身体のことまでは流石に」
「じゃあ秋宮さん!」
「えっ!?」


この流れで振ってくるの!?


「……も知ってるわけないよなぁ〜! 本当に筋肉ついたんだって!!」


ほらほらと腕に力を込めながら「毎日腕立てもしてるんだよ〜信じて〜」と言う寺田くんに、堪らずみんなが笑い出した。


「ぷっ、もう信じるから! だから動かないで」
「私も信じるよ!」
「俺も」

「みんなテキトーじゃん!」


不満気な寺田くんだけど、里帆の鋭い視線によって身体は不自然なほどぴたっと止まったまま。


顔だけで器用に感情を表すその姿に、やっぱり笑いが込み上げてくる。

< 64 / 65 >

この作品をシェア

pagetop