意地悪な副社長との素直な恋の始め方
残念ながら、『SAKURA』の料理を味わったことはないが、とあるカフェにて特別提供されていたマカロンを食べて以来、いつかもう一度食べてみたいと思っていたのだ。
「マカロン? 一応、訊いてはみるが……」
「あの、でも、ちがうものでも絶対に美味しいと思うから、何でも……」
「わかった。要するに、用意できるだけの菓子を食べたいってことだろう?」
「え。そこまでは……」
「そんな顔で遠慮しても、まったく説得力がない」
苦笑した朔哉は、わたしの手に一万円札を、唇には軽いキスを落としてタクシーを降り、普通の家のような外観をした店の中へ消えた。
(意地悪バージョンと、甘々バージョンを交互に繰り出すのはやめてほしい。どう反応すればいいか、わからないじゃない……)
しばらくぼーっとしていたが、タクシー運転手の控えめな咳払いで、我に返る。
「あ、す、すみません、次は……」
火照ったままの頬に手を当て、朔哉のマンションの住所を告げようとして、通りを横切る派手な女性の姿に、ふとシゲオのことを思い出した。
(この時間なら、京子ママのお店で捕まえられるかも?)
シゲオには、足を向けて寝られないほど世話になっておきながら、ロクに説明もしないままだ。荷物は置きっぱなし、ポートフォリオの件も中途半端で投げ出している。
「あのっ! すみません。次は、『ラウンジ・バー 風見』へ、お願いします」