意地悪な副社長との素直な恋の始め方
見かけ倒しの悪女です
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(変わってない……って、当たり前か)
タクシーを降り、シンプルな外観の店を目にして、「懐かしい」と思ってしまった自分に、苦笑いした。
この短期間にいろんなことがありすぎて、ホステスデビューを果たしたのが、随分昔のことのような気がする。
「こんばんはぁ……」
しん、と静まり返った開店前の店内に、わたしの声だけが響く。
無断でバックヤードに入り込んでいいものか。まずは電話するべきか。
迷っていたら、「何やってんのよ?」と後ろから肩を叩かれた。
「シゲオ!」
「元気そうね? 偲月。生きてて、何よりだわ」
黒いメイクボックスを手にしたシゲオは、顎を上げて「入れ」と示す。
「そこにいられると、邪魔よ。京子ママにも、元気な顔を見せなさい。すっごく心配していたんだから」
「う、うん」
「京子ママ! 偲月が来たわ!」
シゲオと共にバックヤードにあるスタッフルームへ顔を出すと、京子ママと征二さん、そして思いがけない人物がそこにいた。
「偲月っ!?」
「……ナツ?」
パイプ椅子を倒して立ち上がったのは、げっそりやつれてはいるが、まちがいなく「ナツ」だった。