意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「芽依の理想の男性って、どんなひと?」

「朔哉お兄ちゃん。お兄ちゃんみたいな人がいたら、すぐにでも結婚したい!」


にっこり笑う芽依の答えは、昔からの口癖だ。
何度も聞いている。

けれど、芽依の細い指が、朔哉の髪を梳き、撫でつけ、襟足から肩へと触れる何気ないその仕草に、チリ、と胸の端が焦げるような感覚が生まれた。


「お兄ちゃん。わたしが結婚するまで、自分は結婚しないって言ってたでしょ? ずーっと、わたしのカレシ代わりでいてね?」


ドライヤーを手放した芽依が、朔哉の背中から抱き着く。

朔哉の横顔が瞬時に強張り、唾を飲み込む喉仏が上下する。
膝の上に置かれた手が握りしめられるのから目を逸らし、ビールを呷って冗談交じりにたしなめた。


「芽依、諦めるの早すぎ。これから出会うかもしれないじゃん」

「そんなことないよ。これまで会った男の人の中で、朔哉お兄ちゃんよりステキな人なんていなかったもの。これからだって、きっとそう。お兄ちゃんもそう思うでしょ?」

「そう言ってもらえて光栄だよ」

「本気にしてないの?」


じゃれ合う二人の様子は、仲のいい兄妹そのもの。
それ以上の意味はないと、思っていた。

芽依と目が合うまでは――。

なぜかわたしを見つめる彼女の唇から紡がれたのは、ただの妹とも、それ以上とも取れる言葉。


「朔哉お兄ちゃん以上に、わたしを大事にしてくれる人なんて、いないわ」


柔らかそうなピンク色の唇が、完璧な微笑みを象る。

そんなはずはない、という思いと、もしかしたら、という思いに挟まれ、窒息しそうだ。


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