意地悪な副社長との素直な恋の始め方
美味しくもないビールを飲み干したわたしの目の前には、恐い顔をした朔哉がいた。


「……なによ」

「飲み過ぎだ」

「そのつもりで飲んでるんだけど」


酔ったせいに、したかった。
酔って、ありもしないものが見えたのだと思いたかった。

それでも、「訊くな」と訴える理性の声が「訊け」と訴える感情の声に押される。


「ねえ、朔哉。どうする? もしも……」




――芽依が、朔哉を「男」として好きだと言ったら?



「もしも、何だ?」

「……何でもない。酔ったから、先に寝る。芽依に、ごめんって言っといて」

「偲月」

「おやすみっ」


寝室へ逃げ込み、ベッドへ身を投げ出した。

急激に襲ってくる酩酊感に目をつぶり、ぼやけていく意識の中、自分に言い聞かせる。


(酔っていたせい。だから、今夜見たものも、感じたことも……)


全部、気のせいだ。



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