意地悪な副社長との素直な恋の始め方
師匠と再会する
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人が動き回る気配と軽やかな笑い声。
お味噌汁の匂い、食器を洗う音。
それらを二日酔いでガンガンする頭の片隅で認識しながら、布団の中へいっそう潜り込む。
自業自得とはいえ、最悪の目覚めだ。
(飲み過ぎた……)
久しぶりの二日酔いに、自分がサイテーのダメ人間になったような気分になる。
熱いシャワーでも浴びて、水をがぶ飲みして、何か食べれば落ち着くだろうけれど、いまはまだ起き出したくない。
「偲月ちゃん、大丈夫?」
布団の上から優しく話しかけられて、ぼそぼそと答える。
「ん……ただの二日酔い……」
「しじみのお味噌汁はないけど、朝ごはんテーブルに用意してあるから、あとで食べてね? わたしとお兄ちゃんは夕城の家へ行くけど……偲月ちゃんも来ない? 夕食は、あっちでお父さんと食べる約束をしてるの」
「ううん……用事、あるから」
布団に潜り込んだまま、ありもしない予定を言い訳にして、誘いを断った。
家族団らんを邪魔するつもりはないし、うっかり余計なことを口にしないか気にしながら、居心地の悪い思いをするのはゴメンだ。
「そう? じゃあ……行くね? 何かあったら連絡してね?」
「いってらっしゃい……」
玄関のドアが閉まる音がして、部屋がしんと静まり返る。
しばらく浅い眠りを貪って、正午近くになってようやく起き出した。