意地悪な副社長との素直な恋の始め方
五百ミリリットル入りのミネラルウォーターを一気に飲み干し、熱いシャワーを浴びれば、半分閉じていた目も開く。
芽依が用意してくれた和朝食は、白米、お味噌汁、漬物、おひたし、卵焼き、焼鮭とシンプル。塩分控えめの優しい味わいだ。
昨夜の今朝でなければ、きっと美味しく感じられただろう。
けれど、昨夜呑み込んだ言葉がみぞおちに重くわだかまっているいまは、残さず食べきるだけで精一杯だった。
(シゲオに言ったら、きっと怒られるだろうなぁ………)
昨夜、喉まで出かかった言葉を朔哉にぶつけることはできなかった。
結局、わたしに対する朔哉の気持ちも、芽依に対する朔哉の気持ちも、どちらも確かめられないままだ。いざという時に、つい逃げ腰になってしまうのは、わたしの悪い癖。
でも、芽依の気持ちはわからなくても、朔哉の気持ちはわかっている。
正解を知っていながら、わざわざ訊ねる自虐趣味はない。
本物が手に入るなら、代替品はいらない。
わたしのことを好きだと言った時、芽依は傍にいなかった。
あの時といまでは、状況がちがう。
芽依がここに住むかどうかはわからないけれど、彼女が朔哉の世話をしないはずがない。
だから、このままではいられない。
わたしが、ここにいる必要はなくなる。
そうとわかっていて、グズグズしてはいられない。
追い出される前に出て行けば、傷は浅くて済む。
昨日運び込んだキャリーケースに、この部屋に置いていっても朔哉が処分に困るだろうもの――買ってもらった下着を詰め込んでいると、スマホがけたたましい着信音を鳴らしながら震え出した。
「もしもーし?」
『起きてる?』
「起きてるよ。おはよ、シゲオ」
『もうとっくに昼でしょうが。おはようじゃないわよ』
「細かいなぁ。じゃあ、こんにちはー?」
『ったく、バカ全開ね』
「そんなイヤミが言いたくて、電話して来たの?」
『そこまで暇じゃないわよ。偲月こそ暇なんでしょ? いまから出て来なさい』
「暇じゃないし。いま荷造り中」
『……荷造り? どういうこと?』
「話せば長くなるって言うかー」
『簡潔にまとめなさい』