意地悪な副社長との素直な恋の始め方

「あのっ! お、お兄さんみたいなイケメンに会うのは初めてで、あの、き、緊張しちゃって! 思ってもないことを言っちゃって! ごめんなさいっ」


目を見開き、あっけに取られていた朔哉は、ふっと笑みを漏らして、いかにも反省しているという表情と声音で逆に謝ってきた。


「知らない男にいきなり近づかれて、びっくりするのは当然だよ。怖い思いをさせちゃってごめんね? 今度からは、不意打ちしないようにちゃんと気をつけるから。それに、美人は三日で飽きるっていうし、イケメンも三日で飽きるよ」


爽やかに言い切った朔哉に、芽依がツッコむ。


「やだ、朔哉お兄ちゃん! 自分でイケメンって言わないの!」

「芽依は、俺のことイケメンって思ってないのか……。悲しいな……」

「そ、それは……お、思ってるけど」

「はは、ありがとう。これからも、自慢の『兄』でいられるよう、精進するよ」


恥ずかしそうに呟く芽依を見る朔哉の目は優しい。
先ほどわたしに向けたものとは、全然ちがう。

そう思ったら、なぜか胸の奥の方がぎゅっとつねられたように痛んだ。


(な、んで……?)


理由は、わからなかった。

でも、それが何なのか、追及してはいけない。
それを求めてはいけないと本能的に危険を悟り、目を逸らす。


(芽依は意地悪なタイプじゃなさそうだし、朔哉とはほどよい距離を保っておけば……たぶん、大丈夫でしょ)


仲良し家族ごっこをするのもせいぜい一年。
程よい距離を保つのは、難しくないはずだ。


「仲良くなれそうで、よかったわね? 偲月」


そう言ってコロコロと笑う母親の目は、『今度やったら、タダじゃおかない』と物語っていたけれど……。

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