意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「撮影技術って、そんな大袈裟な」
ここに並ぶ作品を見れば、自分の撮ったものなんて趣味の域を出ないとわかる。
しかし、コウちゃんは目を丸くして奥さんの八木山さんと顔を見合わせた。
「偲月ちゃんが撮った社内報の写真、広報部で絶賛されているって聞いたけど? そうだよね? ヤギちゃん」
「え……?」
話が見えず、事情を知っているにちがいない八木山さんを見つめれば、大きく頷かれた。
「明槻さんが撮った写真、新入社員たちの表情がすごく良くってね。事前に目通しをお願いした社長からも、お褒めの言葉をいただいたわ。貴重な副社長の笑顔も写っていたし、女子社員の間で副社長人気がますます高まるのは、まちがいないわね」
「は、はは……」
役に立てたのは嬉しいが、朔哉の反応が怖い。
仕事にかこつけて、思い切り私情を挟んで撮っていた自覚はある。
そして、わたしがあの時カメラを持って駆けずり回っていたことは、朔哉も目撃しているわけで……。
冷たい汗が背筋を流れ落ちた。
(マズイ……激怒、されるかも……?)
どうやって朔哉の追及をかわそうか、必死に考えていたところ、思いもよらぬ誘いを聞く。
「ね、明槻さん。広報に来る気ない? もうちょっと先だけど、わたしが産休に入るでしょ? その補充要員、まだ決まってないの」
「え?」
「広報にいれば、自分の撮った写真が多くの人の目に触れる機会も得られるわ。大きなプロジェクトは、宣伝を広告代理店に外注するけれど、外部の人間との擦り合わせが難しい案件や極秘で進めているプロジェクト。露出を控えることで宣伝効果を高める戦略を採る場合は、広報部で制作しているの。つまり……フォトグラファーとして、デビューするチャンスもあるってこと!」
自分の写真が認められたことは、素直に嬉しいと思う。
異動しないかとまで言ってもらえるなんて、ありがたい話だ。
けれど、いままで写真を撮ることを仕事と結び付けて考えたことはなかった。
「あの……でも……」
答えに迷うわたしを見かねたのか、コウちゃんが助け舟を出してくれた。
「いきなり転職するのはハードルが高いかもしれないけれど、社内での異動ならそこまでじゃないと思うよ? 最初のチャレンジとしては、いいんじゃないかな?」