意地悪な副社長との素直な恋の始め方
素直になるきっかけ
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「はぁ……なんだか、お腹いっぱい」
コウちゃんたちの写真展をあとにし、シゲオのマンションに車を置いて、居酒屋へ繰り出しているいまもまだ、わたしの興奮は冷めていなかった。
予想もしていなかった、しかし嬉しい再会に揺さぶられた心は、ふわふわと落ち着かない。
「いっぱいなのは、お腹じゃなく胸でしょ。さっきから鳴ってるのは、アンタのお腹だもの」
「そうだけど。シゲオ、連れて行ってくれて、ありがとう」
シゲオは、このために京子ママのお店の仕事を知り合いに代わってもらったと言うし、いよいよ頭が上がらないどころか、二度と足を向けて寝られなくなった。
「お礼はいらないわよ。わたしにとっても、いい刺激になったもの。日村さんとの再会、大きな収穫があったんじゃない? 広報へ異動するって話も、アリだと思うわよ?」
「うん……」
気持ち的には、「やりたい」方へ傾いている。
でも、自信はまったくない。
「何事も、始めてみなければどうなるかわからないものよ。新たな自分を発見して、驚くこともあれば、幻滅することもあるでしょうけど……。ダメでも、ダメだったということを知れる。そこから、また始まるものだってあるわ」
「うん……」
わかっていても、思いきれない気持ちを持て余し、野菜スティックでディップをかき混ぜていると、シゲオが無茶なことを言いだした。
「ねえ、偲月。朔哉を撮ってみたら? 日村さんも、言ってたでしょ。レンズを通すと、本当は見えているのに、気づいていないものが現れるって」
「え。でも、朔哉が『うん』って言うはずがない……」