意地悪な副社長との素直な恋の始め方
呆れ顔で溜息を吐いたシゲオは、それ以上の説教を諦めたようだ。
料理に使われている素材の栄養価、美肌効果などについて解説しつつ、最近見つけたカフェのイケメン店員のことなんかを嬉しそうに話し出す。
いまのところ仕事第一だから、深い付き合いの相手を作る気はなく、イケメンを見つけては日々の癒しにしているらしい。
常にアグレッシブなその姿勢、見習いたいと思うけれど……思うだけだ。
気に入ったら即、名刺を渡すなんて芸当、わたしにはとても真似できない。
(思えば、自分から動いたのって、朔哉だけかも……?)
小・中・高・大学と、告白されたことはあっても、自分からしたことはなかった。
そもそも、想いを伝えたいと思うほど、好きになった相手がいなかった。
(ってことは……わたしって、朔哉が初恋で、それでその初恋をずーっと引きずってるってこと? それって、一途というよりは、重い……)
「ちょっと偲月。さっきからブーブー言ってるの、アンタのスマホじゃないの?」
「ん? あ、ほんとだ……」
鞄の中で、スマホがピカピカとLEDライトを点滅させながら震えていた。
何気なく取り出し、ディスプレイを見た途端、酔いが一気に醒める。
(さ、朔哉……)
「どうしたの? まさか……朔哉?」
鋭いシゲオの目はごまかせない。
「う、うん……」
「さっさと出なさいよ」