意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「で、でもっ! なんて言えばいいのっ!?」
「酔ったから、迎えに来てって言えばいいじゃない」
「や、いま実家にいるはずだし」
「アンタの居場所を確認しようとしているんだったら、自分の家に戻ったんじゃないの?」
「え……あ……ヤバイ、かも。荷造り途中で放置したまま……」
血の気が引き、固まったわたしの手から、スマホが消えた。
「しようがないわねぇ……もしもーし? アンタ、誰?」
わたしからスマホを奪ったシゲオは、いかにもガラの悪そうな声で勝手に応答する。
「し、シゲオっ!」
慌ててスマホを奪い返そうとするが、ひらりと身をかわされた。
ニヤニヤ笑うシゲオは、わざとらしく電話の向こうの朔哉を挑発している。
「んー? どういう関係かって? 偲月とは、長い付き合いだよ。お互い、何でも知ってる大事な相手。アンタこそ、何の権利があって、偲月を束縛すんだよ? ただのセフレだろ?」
(な、にを……何を言ってるのよっ! シゲオぉぉぉっ!)
「とにかく、俺と偲月は楽しい時間を過ごしてるわけ。邪魔すんなよ。ああ、でも、さんざん偲月を傷つけたアンタのこと、一発くらい殴ってもいいかもな。最後に、ちゃんと別れ話させてやるから、いまから言う店に来いよ」
「え」
止める間もなく、シゲオは現在わたしたちがいる店の名を告げると、電話を切った。
「予想では、十分以内に来るわね」
「は……な、何、言って……わたし、帰るっ」
激怒しているにちがいない朔哉と顔を合わせるなんて、とんでもない。
いますぐ逃げ出さねばと立ち上がったが、手にした鞄をひったくられた。
「座れ」
「ちょっとっ!」
「いいから、座りなさい」
「……はい」
笑顔で命じられ、諦めた。
朔哉も怖いが、シゲオも怖い。
「アンタに負けず劣らず、朔哉も素直じゃないんでしょ? ちょっと刺激してやれば、本音が覗いて見えるわよ」
「いや、見えるのは本音というより激怒じゃないかと……」
「あのね、偲月。自然がそうであるように、愛も恋もいろんな顔を見せる。執着、束縛、嫉妬、怒り、憎しみ……そういった負の感情だって、その一部だわ。でもね、何とも思っていなければ、何も感じない」
「でも、」
「いいから、大人しく待ってなさい。きっと、意外な朔哉を見られるから」
「…………」