意地悪な副社長との素直な恋の始め方
意外というよりも、未だかつてないほど激怒する姿を見ることになるのでは、と思ったわたしは、すかさず梅酒をダブル、ロックで頼んだ。
しかし、それが運ばれて来る前に、不機嫌そのものの顔をした朔哉が現れる。
顔色を変えたわたしを見たシゲオが振り返り、呟いた。
「五分と経ってないじゃない。探し回っていたってことね」
「奥へ詰めろ。偲月」
命令しておきながら、朔哉はわたしがずれる前に無理やり隣に座った。
「まずは、駆けつけ一杯。どうぞ?」
シゲオが差し出すメニューを一瞥した朔哉は、ちょうどわたしの梅酒を持ってきた店員へ「ビール」とだけ告げる。
「はじめまして。牧田 茂雄。偲月とは高校の同級生で、ついこの間まで一緒に暮らしていた仲で……」
(し、シゲオーっ! なんでいきなり、そんな話をぶちかますのよーっ!)
シゲオの部屋に居候させてもらっていたのは事実だが、物事には順序というものがある。
恐る恐る朔哉の横顔を窺えば、怖いくらいの無表情だ。
「友人としても、仕事で使うポートフォリオのモデルとしても、公私共に深―い付き合いをさせてもらってる」
慇懃無礼一歩手前の物腰で、名刺を差し出すシゲオに、朔哉も名刺を差し出した。
「夕城だ。偲月が随分、世話になったようだな」
「なった、じゃなく、これからも親身になって世話をさせてもらうつもりだから。アンタみたいなロクデナシに頼らずとも済むように」
「おまえに言われる筋合いはない」
「それはこっちの台詞だってーの。アンタといても偲月は幸せそうじゃない。つまり、ちゃんと愛されてるって思ってない。そんな風に思わせてる段階で、十分ロクデナシなんだよ」
「…………」
(し、シゲオ……な、何を、何をする気……)
まるで、元カレVSイマカレのような展開に持ち込んだシゲオの思惑が読めず、困惑してしまう。
「大事にできないなら、解放してやれよ?」
「断る」
「は?」
「手放す気はない」
「アンタ、イケメンだし、寄って来る女は山ほどいるだろ?」
「どうでもいい女に言い寄られても迷惑なだけだ」
「別にいいじゃねーか。セフレの一人や二人、いなくなったって」
「……セフレじゃない」
朔哉の声が一段と低くなった。