意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「は? セフレじゃない? 自分の都合で呼び出して、ヤることだけヤったらおしまいで、そのどこがセフレじゃないって? アホなこと言うなよ」
「……お、お待たせしましたぁ……」
睨み合う二人の様子に、ビクビクしながら店員がわたしの梅酒とビールを置いて去って行く。
朔哉は、グラスになみなみと注がれた琥珀の液体を一気に飲み干し、濡れた唇を乱暴に指で拭ってきっぱり言い切った。
「寝るだけの女に時間を割くほど、暇じゃない」
「え?」
(それって……つまり……?)
素直じゃない言葉の裏側にあるものを確かめようと、横に座る朔哉をそっと盗み見るはずが、ばっちり目が合った。
心なしか、その顏が赤くなっている。
朔哉は、ビール一杯で、酔いが回るほどお酒に弱くはなかった……と思う。
「帰るぞ」
「う、うん」
「偲月、あとで連絡しろよ?」
朔哉は、ニヤニヤ笑うシゲオを物騒な表情と声で、威嚇する。
「偲月の交友関係に口を挟むつもりはないが、友人以上の関係になりたいと思っているなら、いますぐ消えろ」
「おー、コワっ! というわけだから、こっそり連絡しろよ?」
(なんで、余計に煽るようなこと言うのよ、シゲオっ!)
朔哉に腕を掴まれて立ち上がり、シゲオの手から鞄を取り返す。
「あ! ちょっと待った!」
テーブルに、多すぎる額の万札をひらりひらりと落とした朔哉の手を掴んだシゲオが、媚びを含んだまなざしで見上げた。
「ね、お礼、貰ってもいいかしら? こんなイケメン、滅多にお目にかかれないもの」
「は? 何の礼……」
素早く伸び上がったシゲオが、唖然としている朔哉の頬にキスをする。
「…………」
「ごちそーさま! じゃ、またねー! 偲月」