意地悪な副社長との素直な恋の始め方
(ま、まずい……さすがに朔哉も、飽きてるよね)
申し訳なさに苛まれつつ朔哉の車へ戻りかけ、どうにも見逃せない光景に出くわした。
美しい流線形を描くスポーツカーに寄りかかり、遥か遠く、水平線を眺める朔哉の横顔に、撮らずにはいられないほど惹かれた。
まだ見ぬ世界に焦がれる少年のようで、それでいて、この穏やかで平和な場所でくつろぐ幸せを知っている年相応の大人でもある。
すんなりシャッターを切れたのは、昨夜、朔哉と自分の気持ちを自分の目で確かめたからかもしれない。
こちらに気づいた朔哉が、レンズ越しに睨む姿を一枚撮ってから、歩み寄った。
「ごめん。待たせちゃって」
「肖像権の侵害だぞ」
「よく写ってたら、朔哉にあげる」
「自分の写真を飾るなんて、ナルシストくらいだろ」
「自分で自分のことイケメンって言うくらいだから、てっきりナルシストだと思ってた」
「偲月」
「いいじゃない。撮りたいと思うほど、魅力的だったんだから」
「お世辞はいらない」
「お世辞なんかじゃない。いい表情をしている人を見たら、撮りたくなるの」
「いい表情? ただ単にぼーっとしていただけだろうが」
「無の境地に至ってるのでなければ、人は常に何かに反応し、何かを思っているものらしいけど?」
「これから行くレストランで食べられるアクアパッツァのことを考えてただけだ」
「アクアパッツァ? 美味しそう!」
かわいらしい外観のイタリアンレストランでは、スマホで美しく盛り付けられた料理を撮りつつ、舌鼓を打った。
ランチのあとは、行き当たりばったりに、寄り道を楽しみながら、公園へ向かう。
道端にあったアイスクリーム屋さんに立ち寄り、直売所で美味しそうな野菜や果物を買い込み……日が傾き始めた頃、最終目的地のチューリップが咲き誇る公園へ到着した。