意地悪な副社長との素直な恋の始め方
恋人に慣れない
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一緒のベッドで目覚め、昼間はデートをして、夜は家でまったり過ごし、再び一緒のベッドで眠る――。
普通の恋人同士ならば、ごく普通の休日の過ごし方。
しかし、わたしにとっては慣れない休日を過ごして迎えた月曜日。
朔哉のせいで、またしても遅刻の危機に陥っていた。
(だから……朝からアレコレするのはやめてって言ってるのにっ!)
ベッドから抜け出すことを許されず、予定していた時刻より三十分も遅く起き出したため、時短メイクの技術を総動員中だ。
最後の仕上げ、アイラインに取り掛かったが、焦るあまり手が震え、意図したより太くラインを描いてしまった。
(ああああああっ!)
やり直している時間はない。あと三十秒で家を出なくては、ギリギリ出勤時間に間に合う電車に乗り遅れる。
(とりあえず、今日から総務だし……人前に出ることはないし……)
被害を最小限に食い止めようと、もう片方の目のアイラインも泣く泣く太めに描いていると、背後にぬっと朔哉が現れた。
「偲月、ネクタイ」
ぷらーんと目の前にぶら下げられたのは、ストライプ柄のネクタイ。
「わたし、もう出なくちゃ遅刻す……」
「俺の車で一緒に出勤すれば、十分間に合う」
(そんなことできるわけないっ! 社長の車で出勤する以上に、無理!)
「もう、自分で出来るでしょ?」
「偲月の練習のためだ」
「あのねぇ……」
「セミウィンザーノットだ」
「…………」
「早くしろ」
わたしが結ばなかったら誰かに――芽依に頼むかもしれない。
そう思ったら、ネクタイを受け取っていた。
芽依に限らず、自分以外の誰かが、キスできる距離まで朔哉に近づくのはイヤだった。
(わたし……実は、独占欲強かったみたい……)
知らなかった自分の一面に、驚く。
人との付き合いは、広く浅く。
浮かないように、かといって鬱陶しい馴れ合いに巻き込まれないように。
それをモットーにして、学生時代の友人たちとも、元カレたちとも、適度な距離を保ってきた。
どんなに仲良くなっても、いつまた転校するかわからない。
別れの辛さを味わいたくなければ、親しくならなければいい。
かといって、クラスで浮いていじめられるのも煩わしいから、それなりに愛想よく。
最初から予防線を張って過ごすのが、わたしにとっては「普通」だった。
束縛されたくないから、束縛しない。
失望したくないから、期待しない。
そうやって、生きてきた。
それで、上手くいっていた。
でもその法則は、朔哉にだけ当てはまらない。