意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「……ちゃんと出来てると思うけど?」
「上達しすぎるのも問題だな。あっという間に終わるんじゃ、楽しめない」
「楽しめないって、……」
わたしが見上げるのを待っていたかのように、キスが降って来た。
「今日から、しばらく社外に出ることが多くなる。泊まりになることはないと思うが、帰りは遅くなるかもしれない」
「うん」
「ただ、……」
「……?」
言い淀んだ朔哉は、首を傾げるわたしにもう一度キスをして、苦笑いした。
「何かあれば、メールでも留守電でもいいから、連絡しろ。即レスが無理な時でも、チェックだけはしている。くれぐれも……」
「勝手にいなくなったりは、しない」
続く言葉の先を読んでそう言えば、もう一度、キスされる。
「夜遊びも禁止だ」
「は? 夜遊びなんてしてないし!」
「シゲオとのあれは、夜遊びではないとでも言うつもりか?」
「あれは女子会よ」
「シゲオは女子じゃないだろう。とにかく、飲み歩くのは禁止だ」
「横暴」
「何とでも言え。迅速に動けない以上、リスクを最小限に抑えるのは当たり前だ」
「リスクって……」
「抗議は受け付けない。さっさと出るぞ。俺はともかく、おまえには決められた出勤時間というものがある」
「だからっ! 遅刻するって何度も言ったじゃない!」
「それから……」
腰に回した腕でわたしを持ちあげた朔哉が、胸元に顔を寄せた。
開いた襟から覗く肌にぴりっとした覚えのある痛みを感じ、何をされたか瞬時に悟る。
「朔哉っ!?」
「襟が開きすぎだ」
「なっ……この程度、普通でしょうっ!?」
「俺の基準では、普通じゃない」
「…………」
(この服、選んだのは誰よ……)