意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「え? ああ、だって、わたしより彼女の方が語学堪能だし、マナーも完璧だし、ちゃんと秘書業務こなせるし。適任」
「確かに、研修先のホテルでも、完璧すぎるご令嬢って言われてたみたいだけど、わたし的には偲月ちゃんの方が、副社長は気を許せるんじゃないかって思うな」
「そ、そう? でも、本当の家族の方が……」
「家族だからって、気が合うとは限らないじゃない! 偲月ちゃんって、高嶺の花と見せかけて、庶民的だし。完璧そうに見えて、どっか抜けてるし。どんな時でも冷静に対応しているように見えて、実はアタフタしてるし。言葉遣いも、素になるとギャルの名残があるし。いろいろと予想を覆してくれて、面白くって、癒されるんだよね~」
褒め言葉には聴こえないが、褒めているつもりであろう評価に、一応お礼を言っておく。
「……癒しを提供できて、光栄です」
「で、本当に広報へ異動しちゃうの?」
サヤちゃんの情報網はCIA並みだ。
しかし、情報を仕入れることはあっても、拡散させることはないだろうと思い、正直なところを答えた。
「興味はあるけど……まだ、決めてない」
本社での部署を跨ぐような大きな人事異動は、春と秋の年に二度行われるのが通例だった。
すでに春の人事異動は終わっているので、次は秋。半年先だ。
コウちゃんとの再会から、「撮りたい」という気持ちは日々膨らむ一方で、広報への異動に気持ちは大きく傾いている。
広報へ行けば、カメラや写真に携わる仕事での経験を積めるし、そんなチャンスは滅多に転がっているものではないと思う。
けれど、ようやく落ち着きつつある朔哉との関係が揺らいでしまうのではないか。そんな心配に、二の足を踏んでしまう。
「もし偲月ちゃんが異動することになったら、すっごく寂しいけど……広報との合コン、よろしくね?」
ちゃっかりしているサヤちゃんの要求に、思わず笑ってしまい、ふっと肩の力が抜けた。
「合コン、セッティングできるかどうかわからないけど、ずっと仕事で迷惑かけちゃったし、今日はお詫びにランチ奢らせて?」
「いいってば、そんなこと気にしなくても! その代わり、今日のお昼は外出ようよ? おしゃれで美味しいパスタのお店、見つけたの! しかも、店員がイケメンなの!」
「はいはい……」