意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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わたしが、朔哉の臨時秘書を務めていた間、サヤちゃんひとりですべての業務をこなすのは、やはり無理があったようだ。
総務に戻った月曜から毎日残業し、どうにか通常運転まで回復して迎えた金曜日。
ホワイト企業である『YU-KIホールディングス』では、休みの前日はノー残業が推奨されていることもあり、十八時には会社を出た。
(朔哉は、今日も遅くなるのかな?)
帰りがけ、空っぽの冷蔵庫を埋めるべく、駅前のスーパーに立ち寄った。
ここのところ、朔哉が家で夕食を取ることがなかったので、ついお惣菜やコンビニ弁当で済ませていたが、そろそろまともな食事をしたい。
毎晩、朔哉の帰宅は深夜に及び、顔を合わせるのは眠る前のほんのわずかな時間。出張のために早朝から家を出ることもあり、一緒に朝食を取ったのはこの五日間で一度だけだ。
(今夜は無理でも、明日の夕食は家で取れるかもしれないし。カレーなら作り置きができるし。むしろその方が美味しいし……)
淡い期待を抱きながら、食材をカゴに放り込んでいると、タイミングよく朔哉から電話が架かって来た。
「もしもし、朔哉? ちょうどよかった! いま、買い物してるんだけど、何か食べたいもの……」
『……偲月。今夜、帰れなくなった』
通信環境がよくないのか、雑音が入り混じる中、聞こえた言葉に自分でも驚くほどのショックを受けた。
「ど、どうして?」
『いま離島にいるんだが、強風で帰りのヘリも船も欠航になったんだ』
重要な取引相手をエスコートし、『YU-KI』が所有する離島に建つ隠れ家ホテルを訪れていたが、高速船かヘリコプターでしか行き来ができない場所のため、天候が崩れるとどうしようもないのだという。
『予報では、明日には天候が回復する見込みだが、島を出たあとも予定がある。たぶん、帰宅はかなり遅くなる』
帰れなくなったのは、不可抗力だ。
そうとわかっていて、わたしに言えることは何もなかった。
「そ、っか……うん、わかった」
『日曜は、なるべく早く帰る。出かける予定は?』
「ない。洗濯物も溜まってるし、掃除もしたいし、家にいる」
『それなら……』
『お兄ちゃん? そろそろ、ディナーの時間だけど……』